友達でいたいから、つきたい嘘

第二部 ナゴミストーリーセッション2nd「友達でいたいから、つきたい嘘」



 どうしてもナゴミちゃんの様子を見ておきたかった。

 あの日、私を助けてくれようとしたナゴミちゃん。
 私が目を覚ましたとき、まだ意識が戻っていなかったが、今日になって目が覚めたと聞いた。

 でも、直接会えない『ある事情』もあって、消灯時間を過ぎた病院に忍び込むことにした。

 どうやって忍び込もうとか、まだ起きてたらどうしようとか、そんなことを考えていたら。

「あら、ナゴミちゃん」
「えっ……!? ルコっ!」

 路上でナゴミちゃんとばったり会うとは思っていなかったので、私は少し驚いた。
 でも驚いたのは向こうも同じ……というか、向こうのほうがびっくりしたようで、

「そんなに飛び上がって驚くことないじゃない」

 思わずおかしくて笑ってしまった。

「な、なんでこんなとこに?」
「ふふ……オカルトよ」

 軽く腕を組んでほほえみ、ウィンクしながら人差し指で唇に触れる。
 この言い方をすると彼女は突っ込んでこなくなる。少しずるいけど。

「ねえ……おとといのこと、覚えてる?」

 ちら、とナゴミちゃんの表情をうかがうと、深刻な話のよう。
 質問の真意がわからずに聞き返すと、彼女は言いよどみ、「例えば」とか「あり得ない話だけど」と念入りに前置きした上で、

「た、例えば……あたしが機械の身体だったとか……」

 一瞬、「覚えてる」と答えかけて口を開き、しかしそのまま声を発さずに閉じた。
 あの病院で目を覚ましたとき、医者に、記憶について聞かれた。「意識を失ったときの状況をしっかり覚えているか?」と。

 私は覚えていると答えた。

 ナゴミちゃんが機械の身体でいて、やっぱりオカルトだったんだ、と舞い上がっていたあのとき。
 突然『水』が襲ってきた。
 あっという間に水に引きずり込まれた私を、ナゴミちゃんはすぐに助けようとして。
 でもだめだった。
 水が渦を巻き始めて、瞬く間に竜巻になって。
 肌が切れて、痛くて怖かった。
 ナゴミちゃんが、私をかばうように抱きしめてくれて、でもだんだん息苦しくなってきて。
 意識を手放す、その瞬間まで、自分でも不思議なくらいはっきりと覚えている。

 そのすべてを話すべきかどうか少し迷ったが、覚えているか否かしか聞かれなかったから口をつぐんだ。
 いや、正確には、詳しく話して説明を求めようかと思ったが、なんとなくやめたのだ。

 そして、本人からこの質問である。
 なんてわかりやすい子なんだろう、と思う。

 察するに、あのときのあの現象は彼らにとっては珍しいものではなく、それでいて私たちには秘匿されなければいけないもの。
 そして、彼女の機械の身体もだ。

 私は――まあこっそりあとをつけたのだから自業自得な面はあるにせよ――巻き込まれたのだから、説明を求めてもいい立場のはず。
 それなのに、医者に聞かれたとき話さなかった理由は。今こうして迷っている理由は。

「よく、覚えてないのよね」
「覚えてない……? そうなの?」
「ええ」

 知りたい。しかし、それ以上に。

「いいえ、覚えてるといえば覚えてるわね。あの日、ナゴミちゃんにオカルトの波動を感じてあとをつけて……ベンチで一休みしてたところまでは覚えてるから、きっと寝ちゃって、熱中症か何かになっちゃったのね」
「そうなの……? そっか、あんな暑い中で寝ちゃうなんて、ルコはアホねっ」
「ふふ、ええ、そうね」

 秘匿していたことがバレた、そのあとの彼女の処遇が、想像に難くなかったから。

「まさか私に、オカルトよりも優先するものができるなんてね」
「? なんか言った? ルコ」
「いいえ、何も言ってないわ」

 彼女以外には通じなかったでしょうけど。
 きっと、これでよかったんだよね?

 あなたとは、まだしばらく友達でいたいから。

  • 最終更新:2017-07-27 23:30:17

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード